memory

kanatyの高校時代の大切な思い出を綴ってます  

<<前のページ | 次のページ>>
第37回 2005年12月10日(土)
事故原因

次の日曜日。
彼女との待ち合わせ場所に行くと、もう1人、男の人も一緒だった。どうやら彼女の彼氏みたい。
彼氏が、私達を車で事故現場に連れて行ってくれるらしい。
サトルくんと幼なじみの彼女は、私と同い年だというのに、少し大人っぽくてアネゴみたいな雰囲気の女のコ。初めて会った私に、とても優しく接してくれた。

私の知らないサトルくんに会える。

私はまだ迷っていた。

私の思いとは別に、車は田園風景の中を静かに進んでいく……

サトルくんが最後に訪れた場所…
とても空気が澄んでいて、見渡す限り田畑が続いている。
山に囲まれているせいか、とても静か。
これが、彼の瞳に最後に映った景色。
これが、彼の命をのみ込んだ場所。
私は自然の恐ろしさに身震いした。

彼がバイクを運転した道路は、とても事故を起すようには見えない一本道だった。
事故原因はスピードの出し過ぎ。
スピードを出し過ぎて運転を誤ってしまい、そのまま田んぼに頭から突っ込んだらしい。
そしてヘルメットを被ってはいたものの、頭にのせるだけだったらしい。もしもきちんとベルトを締めていたら、ヘルメットがサトルくんの頭を守ってくれていたかもしれない。
そう思うと、とても悔しい気持ちになる。
全面的にサトルくんの過失。若さゆえの過失。
頭の打ち所が悪かったとしかいいようがなく、ほぼ即死状態だったらしい。
痛いと感じる暇もなかったのだろうか?
でもきっと、その瞬間は恐かったに違いない。
ココロが震えたに違いない。
かわいそうなサトルくん…

神様どうして?
どうして、足の怪我とかにしてくれなかったの?
どうして彼の命を奪ってしまったの?
私のキモチはもうどこにも届かない…

私は事故現場に何を期待していたのだろうか。
ただ悲しみが募るだけで…
いや、悲しみに悔しさもプラスされたように思う。
虚しさばかりがココロに広がっていく…


フレーム
第36回 2005年10月2日(日)
事故現場

ある日突然、サトルくんの幼なじみだという女のコから電話があった。
私は少し身構えた。
また、彼と仲の良かった女のコからの文句かもしれない。私に対する不満を訴えたいヒトが、まだいるのかもしれない。
そう思うと、何もかもが疑心暗鬼になってくる。
どうしようもなく不安になってくる。

しかし、電話の彼女は、私に対してとても好意的な声で話し始めた。
その声を聞いて、私もホッとした。

彼女は、サトルくんが事故を起した場所に一緒に行かないか?…と私を誘ってくれた。
自分も前から行きたいと思っていて、その正確な場所を探したらしい。
そして、その時一緒にいた友達にも会えるように手配したらしい。
だからと言って、自分はサトルくんとつき合っていたわけでもなんでもなく、ただの幼なじみだ…ということを強調してくれた。
自分の幼なじみが突然こんなことになって、とてもショックだということ。
そして、私のことはサトルくんから聞いていたので、すごく気になっていたということも。

彼女は良いヒトかもしれない。
もしも昔、彼とつき合っていた女のコだったとしても、きっと良いヒトなんだと思った。
私はシミジミと、彼の交友関係の広さに感心した。

事故現場…彼が他界した場所。
今まで私は、そこに行ってみたいとか思ってもみなかった。
彼が突然私の前から消えてしまったことが悲しくて、そのことばかり頭を駆け巡り、他は何も考えられなかったのだ。
私は迷った。
そんな場所に行ったとしても、彼が生き返るわけではない。
なんのために行くのか…と。

即答はできなかった。
『少し考えさせてください』と言って電話を切った。

母に相談したら、『心残りのないようにしたほうがいよ』と言ってくれた。
友達に相談したら、『もしかしたら、サトルくんの魂が、まだその場所に残っているかもしれない』と言ってくれた。

私はさらに迷った。
事故現場に行って、どうなるというのだろうか。
今さら知らない彼を知ったとしても、それがどうしたというのだろうか。
何をしても、彼は生き返らない。
私を置いていなくなってしまった事実は消せない。

でも…母の言う通り、後になって行きたくなるかもしれない。
友達の言う通り、彼の魂に出会えるかもしれない…

考えに考えて、私も彼女と一緒に行くことにした。
これは私の使命かもしれないから。
いや、これは私の試練だ。
今はまだ、そよぐ風に身を任せてみようか…


フレーム
第35回 2005年8月23日(火)
バッシング

私が孤独と戦っていた頃、中学の時に同じテニス部で仲良くしてた女のコから手紙が届いた。
彼女はサトルくんと同じ高校なので、普段私とはなかなか会えないから、手紙をくれたんだと思う。
手紙は、お葬式で見た私の落胆振りをとても心配してくれていた。
それと、もう一つ気になることが書かれてあった。

それは…私に対するバッシング。

サトルくんと仲の良かった女のコが、私に対して強烈な批判をしているらしかった。
『悲劇のヒロインぶってる!!』
『何様!?』
『そんなに自分が主役になりたいのか!』などなど…
それはそれは、聞くに堪えないコト…らしい。
直接聞いたら、きっとショックで立ち直れなかったかもしれない。
その友達は、そんな批判を間近で聞いて、私のコトがとても心配になったということだ。
彼女自身も嫌なキモチになったんだと思う。
彼女には、『大丈夫よ』というような手紙を送った。

でも驚いた。
そんなことを思っているヒトがいただなんて。
しかも、私とは直接面識のないヒトから…
私はその時初めて、周りが見えていなかったのかもしれない…と思った。
突然背負った悲しみは、私にはあまりにも大き過ぎた。
だから、みんなに甘えすぎていたのかもしれない。

だけどありがたいことに、実際に私の耳には、そんなバッシングの声などは届いていなかった。
私の周りの友達は、もし聞いていたとしても、私には伝えなかった。
きっと、私の悲しみを目の当たりにしていたから、伝えられなかったんだと思う。
そんな思いやりに、今でもとても感謝している。

それにしても、不思議だ。
私の知らないヒトが、私の知らないトコロで、私の悪口を言っている。
それも自分のストレスを発散するかのように。
何か得体の知れない生き物が、一人歩きしているような感覚。
それと同時に、なんだかわからない不安なキモチが、私を襲った。
私という人間は、このまま生きていてもいいのだろうか。
私のせいで傷つくヒトもいる。
そして、私も傷つく。

もし、そのコに会うことがあったのなら言ってみたかった。
『できるなら、悲劇のヒロインの座は喜んで譲りたい』と。
私は、悲劇のヒロインになんかなりたくなかった。
そんな風に思われるヒトになんか、なりたくなかった。

普通でいい。
ただ、好きなヒトが隣で笑ってくれること。
それだけが私の望み。
こんなに悲しい思いをするのなら、サトルくんのことなんか好きになるんじゃなかった。
つき合うんじゃなかった。
彼女になんかなりたくなかった…

後から聞いた話だけど、そのコはサトルくんのことが好きだったらしい。
彼女から見れば、突然、違う学校のコがサトルくんをさらって行った…みたいな感じだったのかもしれない。
私さえ現れなかったら、サトルくんの彼女になっていたのかもしれない。
だけど私には、どうすることもできない。
そのバッシングを受け止めるココロの広さもない。
それに、彼はもうこの世にいない…

だから、このことは忘れようと思った。
話題にもしたくないし、そのコと関わりたくない。
何より、これ以上傷つきたくない。。

だけど、彼がそんなにモテるヒトだったなんて知らなかった。
私はただただ、彼のコトだけを見ていた。
彼の言うコトを信じ、彼の行動を信じ…
でも私は、本当のサトルくんのことをよく知らなかったのかもしれない。
だって、無免許でバイクに乗るようなヒトだってことも、知らなかった。
他にどんな友達とつき合っていたのか、というのも知らない。
何も知らないんだ。

第34回 2005年7月26日(火)
絶望の日々
『私の時計はあの日以来ずっと止まったまま。
私の心も感覚も、あの日からずっと動こうとはしない
今の私は、まるで人形のよう…
人間の形をした抜け殻
今では、涙もかれて、ただ心が苦しむだけ
あなたの笑顔が忘れられない
あなたのことを忘れられない
I want to see you.
無理な願いだとわかっていても、あなたに会いたい
I miss you very much.
悲しすぎる あなたに会えないなんて悲しすぎる

どこを歩いても あなたの姿はどこにも見えない
あなたの心も姿も もうこの世にいない
それなのに もうあなたはいないのに
世の中は何もなかったかのように ぐるぐる忙しく回ってる
あなたの姿が忘れられない
あなたの全てが忘れられない
I want to talk with you.
無理な願いだとわかっていても、あなたと話がしたい
I miss you very much.
悲しすぎる あなたともう話しができないなんて
あなたと電話ができないなんて…悲しすぎる』
(17歳の時に書いた日記より)

私は毎日、ひとり部屋の中で詩を書いた。

この悲しみを、どこにどんな風にぶつけたらいいのか、わからなかった。
両親も友達も、最初はとても親身になって励ましてくれた。私の話も、たくさん聞いてくれた。
とても感謝している。

でも、時がたつにつれ、その顔に陰りが出てきた。
私の口から繰り返されるサトルくんの話。
周りの人々は、だんだんウンザリしてくる。
学校では、“彼氏が死んだかわいそうなコ”っていうので有名になった。
友達は皆、私を腫れモノ扱いをした。
せめて、両親にはそんな風に接して欲しくなかった。
でも、同じだった。
私は、そんな周りの反応に敏感になっていた。

きっと、みんな、どう接していいのかわからなかったんだと思う。
私も同じだ。みんなと、どう接していいのかわからない。
私の知る限り、周りの誰もが初めての経験だったから。

その頃から、私は周りのヒトの顔色を伺うようになった。
みんなが私に気を使う。
みんな不安そうな瞳で私を見る。
そういう空気が嫌で、人前ではニコニコするように心がけた。それはみな、作り笑顔なんだけど…
『私は大丈夫』っていう顔をしないと、窒息しそうだった。
だけど、みんなに気を使いすぎて、学校から帰ると、ドッと疲れる。
ひとりになりたくて、部屋に閉じこもってしまう。
その繰り返し。

後から聞いたコトだけど、両親は、今だけは私の好きなように、やりたいようにさせてあげよう。私をそっとしておこう…と決めてくれたらしい。
だけど、残念ながら、両親が思う以上に私は子供だった。
その時の私は、何がやりたいのかどうしたいのか、全然わからなかった。
だから、両親の私に対する思いやりの気持ちは、私には伝わらなかった。
ただ、冷たいな…と感じるだけだった。

本当の私の望みは…
私をひとりにしないで欲しい。
私が嫌がったとしても、そっとしないで欲しい。
そして、100回でも100万回でも、サトルくんの話を嫌な顔をせず聞いて欲しい。
もっと誰かと関わっていたかった。
だけど、そういう私の望みは、きっと両親にも友達にも、重荷だったんだと思う。

なんだか突然、ひとりぼっちになった気がした。
私は、ただ、寂しくて寂しくて仕方なかった。
そして、自分で自分のココロに鍵をかけてしまった。

誰かに愛されたい。
愛してると言って欲しい。
誰かに傍にいて欲しい。

どうしてこんなことになったんだろう。
サトルくんがいなくなっただけで、こんなにボロボロになるなんて。。
サトルくんと出逢う前の私は、どこに行ってしまったんだろう。

私のココロは、孤独で孤独で悲鳴をあげていた…


フレーム
第33回 2005年6月21日(火)
呼び出し

お葬式の次の日の昼休み、さっそく担任の先生に呼び出された。
他の教師もいる職員室ではなく、小会議室。
私がその部屋に入って行くと、先生はとても恐い顔をして窓際に立っていた。

「どうして、葬式へ行ったんだ!!!」
私の顔を見るなり、そう怒鳴った。
私は何と言っていいのかわからず、黙っていた。
「学校を休むなと言っただろ!!!」
先生と二人っきりで、いきなり大きい声を出されて、私はどうしたらいいのかわからなかった。
「あいつとは、どういう関係だ!!!」
先生の勢いは止まらない。
私は、やっとの思いで、「友達です」と答えた。
「それだけかっ!!?」
蛇のような目で私を睨みつけている。

どうしてこんなに責められなくてはいけないんだろうか。
そんなに悪いことをしたんだろうか。
私は、急に悲しくなった。
先生にとって、私の気持ちというものは、どうでもいいことなんだろうか。
我慢の限界だった。

「私だって、お葬式なんか行きたくなかった!!
サトルくんに死んで欲しくなかった!!!」

そう叫んで、そのまま泣き崩れてしまった。
もう止まらない。
涙は次から次へと溢れてくる。
そうなんだ。
私は、行きたくてお葬式に行ったわけではない。
サトルくんが目覚めないから、仕方なく行ったんだ。
できれば、行きたくなかった。
こんなことは起きて欲しくなかったんだ。
まだ信じられない。
彼が他界したという事実を受け入れることができない。
それなのに…

先生は、私のその様子に心底驚いたみたいだった。
「あ…、その…、親戚じゃないんだな」
先生の怒りはトーンダウンしていた。
「…はい。大切な…友達です」
私は、泣きながらそう答えた。
「もういい。教室に帰れ」

私は今まで、人前で自分の感情をこんなにも強く爆発させたことがなかった。
他人に向かって、こんなに強く思いを吐き出したことは、生まれて初めてかもしれない。
いつも自分の感情は抑え込んでしまっていた。
言いたいことがあっても言えない。
思っても、我慢する。
それが本当の私だった。
高校生までの私には、はっきりとした反抗期というものがなかったんだ。

そしてこれが、サトルくんに関して感情を露にした、最後のできごとになった。

その後、先生もあまりうるさく言わなくなった。
これもみんな、サトルくんのお陰なのかもしれない。
だけど…

フレーム
第32回 2005年6月13日(月)
最後のガールフレンド

お葬式の朝、母が学校に電話をしてくれた。
「今日は体調が悪いので休ませます」と。
でも担任の先生は、それは嘘だと言って、私が学校を休むことをを許さなかった。
そんな様子を見ていた父が、また学校に電話をしてくれた。サトルくんのことを遠い親戚のコだとし、家族でお葬式に出なければいけないと説明した。
父の申し出には、さすがの先生も負けたようだ。
渋々了解をしてくれた。
親戚だというのは嘘だけど、うちでバイトをしてくれていたから、当然父も母もお葬式には出るつもりでいたのだ。

とうとう最後の日になってしまった。
サトルくんはもう、棺のなかに入れられてしまっている。
昨日までのように、部屋でただ眠っているわけではない。
こうなってしまったら、サトルくんにキスをして、目を覚ましてもらうことなんてできない。
勇気のない私。
もうダメだ…。
絶望感。そんな気持ちでいっぱいになった。

お寺で行われたお葬式には、サトルくんの学校の生徒もたくさん来ていて、とても盛大なものになっていた。
私と同じ学校の、彼の友達も来ていた。
聞けば、彼等の担任の先生は、普通に学校を休むことを許してくれたらしい。
私だけだ。許してくれなかったのは。。

私は、大人とコミュニケーションをとるのが苦手だった。
そのことは、母親にもいつも注意されていた。
赤ちゃんの頃からそうだったらしく、『可愛げのない子供だったよ』と今でも言われる。
大人の喜ぶようなことを言って仲良くなったりすることが、なかなかできない。
だから担任の先生とも、特に仲良くしたりもできなかった。
別に大人が嫌いなわけではない。
何を話したらいいのかわからなくて、普通にニコニコ笑うくらいしかできないのだ。
担任の先生と、もっと仲良くしていれば、お葬式に出ることも許してくれたかもしれないのに。
不器用な私。

サトルくんのお母さんは、私を親族側の席に座らせてくれた。私は、結婚したわけでもないのに、いいのかな…と思いながら、その好意に感謝した。
もっと、感謝の気持ちを表現できればよかったと思う。
でも私にはできなかった。
しかもそんな私を、するどい瞳で見詰めていた少女がいたことにも気づかなかった。
いや、少しは気づいていたのかもしれない。
けど、その知らない少女のことを気づかう余裕は、私にはなかった。

火葬場で、ずっとしっかりしていたお母さんが、棺がドアの向こう側に入っていった瞬間、泣き崩れた。
人目もはばからず、絞り出す様な声を出して泣いている。
私はその光景を見て、彼の両親の悲しみの深さを知った。
そしてずっと頼りなく沈んでいたお父さんが、お母さんを抱きかかえて、しっかりと支えていた。
これが夫婦なんだな…と思った。
初めて知った。
残されたモノの悲しみの深さを。

ごめんなさい。私はサトルくんを生き返らせることができなかった。私は無力。
でもまだ思っている。あの時、私が勇気を出してキスをしていれば…と。
その思いにすがるしかなかった。
彼がこの世からいなくなってしまうことが信じられない。
いや、どうしても信じたくない。

私はサトルくんの最後の彼女。
そんなのに、なりたくなかった。

この時から、私の時計は止まってしまった…

第31回 2005年6月10日(金)
担任の先生

担任の先生は、体育担当の男性教師。
いつも私に厳しかった。
その理由の一つは、私が優秀な生徒ではなかったということ。
もう一つは、私の父がPTA会長だったということ。

うちの学校では、校長や教頭などの管理職の職員と、その他の先生方が対立していた。
そういう組合があったんだ。
そして、PTA会長は管理職側だった。
これは高校だけではない。
小学生の頃、担任の先生に意地悪をされていた記憶がある。その先生も、管理職と対立していた。
私は人前で発言もできない程、とても大人しい生徒だった。
父はいつもPTA会長をやっていたし、母も気が強かったから、先生から嫌みを言われるのも慣れていた。

中学生になって、少し明るくなった。
高校生になったら、普通に明るくなった。
今で言う、コギャルだったのかもしれない。
好きなモノはファッション誌とジャニーズ。
ヤンキーが流行った時代だったけど、そのファッションはあまり好きではなかった。
もちろん、不良っぽい生徒に憧れてはいたけど、自分がそうなる勇気はない。
ただの小心者。

確かに校則違反はした。
聖子ちゃんの髪型がしたくて、内緒でパーマをかけたり、決められたソックスが嫌で、リボンのついたソックスを履いたり…今考えると、どれもかわいいモノだった。
まぁ、遅刻ギリギリで教室にたどり着いたりもしていたし、勉強もできなかった。
だけど、わざとではない。

やっぱり、先生から見て、ダメ生徒だったのかもしれない。
先生は、休憩時間になるといつも校内放送を使って、恐い声で「職員室まで来い!」と私を呼びつけては、ネチネチと注意をした。
そして、私の顔が、上級生の要注意人物の女生徒に似てると言っては怒った。
私はこの先生のことが嫌いだった。
だって私は、普通におしゃれが大好きな女子高生に過ぎないのに。
それに校内放送で呼び出されたりしたら、その恐い先輩に、反対に目を付けられてしまうかもしれない。
先生は何もわかってない…と思っていた。

この担任の先生は、私がサトルくんのお葬式に行くことに大反対をした。
理由は、学校を休んではいけない…ということ。
6時間目の授業をサボったことに大激怒して、私を探し回り、サトルくんの家にまで乗り込んで来て、私を鬼のように叱った。
そして、「明日は絶対学校を休むな!葬式には出るな!」と言い残して帰って行った。
私は、どうしてそんなに怒るのか、わけがわからなかった。
一日くらい休んでもいいじゃないか…と思った。
どこかへ遊びに行くわけではない。
サトルくんの傍にいたいだけなのに…
それがそんなに悪いことなの?
それがそんなに許されないことなの?

サトルくん…
私、どうしたらいいの?
あなたが目を開けてくれたら、私は…

フレーム
第30回 2005年5月24日(火)
友引

これは神様が私にくれたプレゼント。
もしかしたらサトルくんをこの世に甦らせる最後のチャンスかもしれない。
私は勝手にそう思った。
本当なら、お通夜の次の日がお葬式。
だけど、友引ということでお葬式が一日ずれた。
友引の日にお葬式をすると、死人は誰かを一緒に連れて行ってしまう…というコト。

今日は月曜日だから、ちゃんと登校はした。
だけどずっと、ココロここにあらずの状態。
授業にも身が入らない。
サトルくんの家は私の学校の近く。
私は早く彼に会いに行きたくて仕方なかった。
5時間目まではなんとか授業を受けた。
でももう我慢できなかった。
こんな時に学校なんて、私の人生においてまるで意味がないように思えた。
学校は毎日ある。でも、サトルくんはもういなくなる。
今のこの“時”は、もう一生やってこない。
私は、6時間目の授業をサボることにした。
そして、サトルくんの家に向かった。
少し足元がふらついたけど、必死に自転車をこいで、彼に会いに行った。

サトルくんの家は、昨日に比べて静かだった。
彼は、昨日と変わらない場所で静かに眠り続けている。
その横にお母さんと、知らないヒトが二人いた。
「学校は?」
お母さんが私に聞いた。
「もう終わりました」
私は嘘をついた。
お母さんはニッコリ笑ってくれた。
嘘がバレたかも。

「今日は天気が良いでしょ。窓を開けていたら、サトルの顔の上を風がサ〜ッと吹いてきてね、このコの長い睫毛が動くのよ。まるでまだ生きてるみたいに…」
お母さんが頬を涙でぬらしながら、夢を見るように話す。
私はココロの中で、『待っててください。きっと私が、サトルくんを生き返らせてみせます。絶対に』
そう呟いた。
私はずっと、その機会をうかがっていた。
ずっと……

彼の寝顔はお母さんの言うとおり、まるでまだ生きているかのようにとてもキレイだった。
時折、風の悪戯で睫毛が動く。
次の瞬間、瞳を開けるんじゃないかと、ドキドキしながら見詰めた。
でも、何も起こらない。
どうして神様は、こんなに愛しいヒトを天に連れて行こうとするの?
まだいいじゃない。他のヒトでもいいじゃない。
どうしてサトルくんなの?
彼が何をしたの?
私の頭は混乱した。こんなコトがあってもいいのだろうか。
彼を連れて行かないで。
私、これから良いコにするから。
お願いだから彼を連れて行かないで。

その頃、学校では、担任の先生が大騒ぎをしていた。
私がいなくなったと……

フレーム
第29回 2005年5月9日(月)
ヨミガエリ

私の足はもう限界だった。
一体何時間、このままの体勢でいただろうか。
サトルくんの家に来てからずっと、黙って正座し続けている。私の足はもう痺れ過ぎていて感覚がない。
まるで違う生き物のようだ。
だけど、この場所から離れることもできない。
こんなに悲しいときなのに、『足が痛い』と思う自分も嫌だった。
ふと部屋の隅を見ると、サトルくんのお父さんも黙って俯いたまま座り続けていた。体全体から力が抜けてしまっているようだ。
この家を訪問してくる人達の対応は全て、サトルくんのお母さんがこなしている。
キレイで、とても優しいお母さん。
きっと、サトルくんはお母さん似かもしれない。
私はぼんやりとそんなことを考えていた。

ふいに、部屋中に下手な音楽が流れ始めた。
「サトルが中学生の頃、学園祭でバンドをやった時のテープよ」とお母さんが教えてくれた。
テープから、ずっと聞きたかった彼の声が流れてきた。
これはロックだろうか…ホントにホントに下手な演奏。
サトルくんの歌も下手すぎて笑っちゃうほど。
だけど、紛れもなく彼の声だ。何回でも聞きたい。
このまま中学生まで時が戻ればいいのに。
私のココロからあったかいモノがジワ〜ッと溢れてきた。
やっぱり、信じられない。
彼がもうこの世にいないなんて、信じられない。
いや、万が一そうだとしても、今ならまだ間に合うかもしれない。そう、何か方法があるはず。
だって彼はまだココにいる。
ただ普通より少しだけ深く眠っているだけだ。
何か……
そうだ。
サトルくんが私にして欲しかったこと。
それは、“キス”
今ここで、私が勇気を出して彼にキスさえすれば、彼は生き返るかもしれない。
白雪姫だって、王子様のキスで生き返った。
その逆だってあるかもしれない。
私のこの思いつきは、だんだん確信に変わってきた。
そう、ここで、私が勇気を出せば…

フレーム
第28回 2005年4月7日(木)
モノクロ

お気に入りのピンクの服を着て来ればよかった。
私は激しく後悔した。
私が、黒い服なんか着て来たせいで…
私が、サトルくんを信じなかったせいで…
彼の家に着いたら、そこはもうモノクロの世界だった。
その瞬間から、私の瞳に色彩は一切映らない。
代わりに、ココロの奥からにじみ出るような涙が、次から次へと溢れ出てきた。
彼の家の周りには、笑顔のヒトなんて誰一人いなかった。
私が玄関の前で呆然としていたら、さっき電話をかけてくれた友達が駆け寄ってきた。
「一緒に中に入ろう」
「これは…」
「今日はお通夜だって」
「でも…」
「サトルくんに挨拶しよう」
私は、うまく足を前に動かすことができずに、その場に倒れそうになった。
友達は、そんな私をしっかり支えてくれた。
そして、私は友達に促されるように家の中へ入った。
部屋の中は、もうたくさんのヒトで溢れてた。
知らない大人達もたくさんいたし、よく見たら知ってるコもたくさんいた。
そして、部屋の奥に静かに眠っているヒトが一人いた。
友達は、私をそこへ連れて行った。
と同時に、サトルくんのお母さんが私に気づいてくれて、「よく来てくれたわね」と優しく声を掛けてくれた。
私は何も言えず、涙でうるんだ瞳をお母さんに向けながら、頭を下げた。
「さあ、顔を見てやって。喜ぶわ」
お母さんは、その眠ってるヒトの顔にかかっている白い布を外した。
その瞬間、私は息をのんだ。
サトルくんだ!
この、たくさんのヒトが遊びに来ているにもかかわらず、こんなトコロで一人で眠っているのは…サトルくんだ。
早く教えてあげなきゃ。
サトルくんに会いに、みんなが来てること。
早く教えてあげなきゃ。
もう起きる時間だよ。
どうしたの?何寝てるの?
だけど、声にならなかった。
私は、ただただ流れ落ちる涙をどうすることも出来ず、彼の寝顔を見詰めていた。
サトルくん、一体何があったの?
私はココよ。
お願い、目を覚まして。


フレーム
第27回 2005年4月1日(金)
新聞

日曜日、いつも通りのんびりと起きた私は、遅い朝食をとりながら、母とおしゃべりをしていた。
前の日は応援団の練習があった。
練習は順調で、ようやく全振り付けが決まり、あとは覚えるだけというところまでになっていた。
私はいつも、学校のこととか、友達のこととか、なんでも母に報告するコトが日課になっていた
母も私の話をにこやかに聞いてくれていた。
この日も、とても穏やかな日曜日だった。

そんな時に、電話が鳴った。
「お友達から電話よ」
一緒に応援団をやってる友達からだったので、振り付けの変更でもするのかなぁ…とのん気に思った。
「もしも〜し」
私の明るい声とは裏腹に友達の声は沈んでいた。
「ねえ、新聞見てないの?」
「えっ?見てないよ」
私は普段、新聞はテレビ欄を見るくらいだった。
「落ち着いて聞いてね」
友達の真剣な声に、何か不吉な予感がした。
「どうしたの?」
一瞬、友達が息を呑んだ。
「サトルくんが亡くなったの」
「えっ!?」
心臓がドクンと鈍い音をたてた。
「うそ!?」
ココロがざわめく。
「私もよくわからないけど、新聞に書いてあるから読んでみて」
「でも、」
「私、これからサトルくんの家に行くから、あなたも来るのよ。後で会おうね」
そう言って、友達は電話を切った。
私は何がなんだかわからなかった。
受話器を持ったまま呆然としている私に、母が異変をキャッチして傍にやって来た。
「何かあったの?」
「サトルくんが死んだって言うの。新聞に出てるって…」

私達は急いで新聞を広げた。
それは小さな小さな記事だった。
『少年A(17)、バイクで事故死。
少年A(17)は無免許でバイクに乗り、スピードを出し過ぎて田畑につっこみ、その際に頭を強く打ち、そのまま即死した…』というようなことが書いてあった。
少年A。
違う!サトルくんはそんな名前じゃない!!
そんなの嘘に決まってる。
みんなで私を騙そうとしてるんだ。
でも何のために?
私の頭は混乱した。
「そう言えば、今朝は自転車がないと思った」
母がポツリと言った。
えっ!?どうしてそんなことを言うの?それじゃあ、嘘じゃないってことになるじゃない!
私は母を恨んだ。
サトルくんは、日曜日の朝はうちでバイトをしている。
私の部屋の窓から、うちの自転車置き場が見える。
だから、日曜日の朝はいつも彼の自転車が見えた。
私はそれを眺めるのが好きだった。
なんだか嬉しくて、なんだかホッとするからだ。
今日はまだ見ていない。
私は、急いで窓に駆け寄り、外を見た。
自転車は…なかった。
それでも信じられなかった。
行かなきゃ。サトルくんの家に行かなきゃ。
サトルくんは死んだりしない。
何かの間違いだ。
でも…毎日かかってきてた電話も、昨夜はなかった。
違う。サトルくんは絶対生きている。
これはドッキリなんだ。
みんなで私を騙して、後で笑うことになってるんだ。
私の頭の中は、現実を必死で否定していた。
信じられない。いや、信じちゃダメだ。
サトルくんは生きている。
いつも通り、私に笑顔を見せてくれる。
行かなきゃ。サトルくんの家に行かなきゃ。

「行って来る」
私はそう母に言って、急いで着替えた。
だけど私は、意識的に黒い服を選んだんだ。
信じてないのに…信じてないなら、ピンクや青や黄色や、他の色を選べばいいのに…
私は、黒い服を選んだんだ。
私は……